77人が本棚に入れています
本棚に追加
ため息混じりの笑いが小さく起こる。
常識に則(のっと)って笑われるのは、多少なりとも気分が悪い。
チーフは彼らには取り合わず、次々と液体を口に含んでいった。
ーーピピピッ。ピピピッ。
甲高い電子音が鳴る。
これは終業の合図だ。
その瞬間に若干名を残して、部屋中の人たちが立ち上がった。
「いやぁ、2015年も働いたなぁ! チーフ、また来年な!」
「うん。故郷の人に宜しくね」
「あー、フロリダが恋しいぜ」
筋骨隆々と呼ぶに相応しい男が最初に挨拶をし、部屋から退出していった。
彼を皮切りに、他の人たちも次々に退去していく。
「またね、チーフ。シドニーが恋しいわ」
「また来年。ニューデリーが恋しいよ」
「じゃあな、チーフ。リオが恋しいぜ」
「それじゃあね、チーフ。トロロが恋しいよ」
代わる代わるに別れの挨拶が投げられる。
チーフと呼ばれた男は曖昧な笑顔で見送るばかりだ。
そして最後の一人が立ち去っていった。
ーーバタン。
まるで嵐が過ぎていったかのような騒ぎだった。
今日は年の瀬の12月29日。
外国籍の研究員は我先にと母国へ帰っていった。
さて、ここはどこかと言うと、とある企業の研究所である。
現在は新作の栄養ドリンクを開発中なのだ。
最初のコメントを投稿しよう!