最終話  事の発端

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ため息混じりの笑いが小さく起こる。 常識に則(のっと)って笑われるのは、多少なりとも気分が悪い。 チーフは彼らには取り合わず、次々と液体を口に含んでいった。 ーーピピピッ。ピピピッ。 甲高い電子音が鳴る。 これは終業の合図だ。 その瞬間に若干名を残して、部屋中の人たちが立ち上がった。 「いやぁ、2015年も働いたなぁ! チーフ、また来年な!」 「うん。故郷の人に宜しくね」 「あー、フロリダが恋しいぜ」 筋骨隆々と呼ぶに相応しい男が最初に挨拶をし、部屋から退出していった。 彼を皮切りに、他の人たちも次々に退去していく。 「またね、チーフ。シドニーが恋しいわ」 「また来年。ニューデリーが恋しいよ」 「じゃあな、チーフ。リオが恋しいぜ」 「それじゃあね、チーフ。トロロが恋しいよ」 代わる代わるに別れの挨拶が投げられる。 チーフと呼ばれた男は曖昧な笑顔で見送るばかりだ。 そして最後の一人が立ち去っていった。 ーーバタン。 まるで嵐が過ぎていったかのような騒ぎだった。 今日は年の瀬の12月29日。 外国籍の研究員は我先にと母国へ帰っていった。 さて、ここはどこかと言うと、とある企業の研究所である。 現在は新作の栄養ドリンクを開発中なのだ。     
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