最終話  事の発端

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部屋にいた全員で味、匂い、感触を研究している。 さきほどの瓶は、数えきれないほどある試作品の中の一部である。 なぜここまで国際色が豊かなのかというと、それは会社の方針であった。 特に次なる商品は、全世界での同時販売が予定されている。 そのため、多くの国で通用する品質でなくてはならない。 すべての国から研究者を集めることは難しかったので、各大陸からザックリと選んで招聘した。 ちなみに公用語は日本語なので、語学に疎いチーフも大助かりだ。 「ゲンジロウさん。オレたちもあがりましょうよ」 静寂を破って話しかけてきたのは、沖縄出身のカイトである。 チーム内の僅かな日本人同士として、彼らは下の名前で呼び合っていた。 「そうだなぁ。他の部署の人たちも帰ってるし、僕らも閉めますかね」 「じゃあ鍵はオレやるんで。今夜はどうします? いつもの?」 「そうだね、一本飲んでこうか。どうせ暇なんでしょ?」 「明日の午後に飛行機乗りますけど、それまで暇人ですね」 「じゃあ決まりだね」 2人は揃って退室し、入り口を施錠。 それからいくつかのゲートで社員証をかざし、外へ出た。 6時過ぎとはいえ、季節は冬だ。 夜の帷(とばり)は落ちていて、微かに吹く風が体温を奪っていく。     
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