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父さんの脇腹からコーンスープが溢れ、床に滴っていた。
どちらかというと左半身の損傷が激しいから、飲食物が漏れてしまいがちなのだ。
「かぁさーん。布巾。布巾持ってきてー」
「あらぁ。お父さんどうしたの?」
「食事中についウッカリ体を揺すってしまってね。床を汚してしまったんだ」
「そう……。でも、ちょっとした汚れくらい構わないじゃない。今更でしょう?」
母さんがため息交じりに言った。
それもそのはず。
何せ室内は血と泥とホコリで、凄まじい荒れ様なのだから。
僕たち住民が居なかったら廃墟そのものにしか見えない。
「ああ、そうだね。つい人間の頃の癖が……」
「しっかりしてくださいな。子は親を見て育つんですからね」
「新環境ってのは若い方が順応しやすいんだよ」
「まぁそうだけどもね」
母さんは箸を片手に座り、スムーズな動きでテレビを点けた。
バラエティ風のニュース番組ばかりが放送されている。
矢継ぎ早に回されるチャンネル。
その一瞬一瞬に映し出されたのは、ダイジェストで紹介されるサッカー選手たち、討論を繰り広げるおじいさんたち、オシャレスポットを紹介するアナウンサーだった。
もちろん全員がゾンビだ。
「予報やってないかしらね。時間帯が良くないのかしら」
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