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「ここには幽霊が出るらしいぞ」
そんな話を聞いてきたのはいつものように黒木だ。
夏休みのはじめ、一年生全員が参加の研修で、宿泊施設に使用されたのは、これで客がはいるのかよ、というくらいの古い作りのホテルだった。
だが、同じ班になった戸田はこういうのはアンティークつって最近人気なんだよ、と言う。
窓にはステンドグラスもどきがはまり、風呂場や廊下は色とりどりのタイルで飾られている。床は飴色の木がきしきし鳴って全体的に薄暗い。
出る、と言われればいかにも出そうだ。
「なんか大勢でいるとな、いつのまにか一人増えているんだって」
「そりゃあれだ、座敷わらしだろ」
戸田はこんな場所にでも漫画を持ち込んでいて、誌面から目もあげずに言う。
「田舎の古い家とかにはよくある話だ」
同じ班に組み込まれた佐竹が首を傾げる。
「座敷わらしって幽霊じゃないのか?」
「幽霊じゃないな、座敷わらしがいる家は栄えるって話だから、大事にされてるらしいぞ」
戸田は変なことに詳しい。もう一人の班員、山岡が感心したようにうなずき、俺を見た。
「ふうん。一回見てみたいなあ? 三島」
俺は連中の話には興味のない顔をしていた。座敷わらしだろうがなんだろうが、現実に存在しないものは見たくない。幽霊だのオバケだのというものははっきりいって苦手だったからだ。
「そんなわけで肝試しだ」
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