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なにがそんなわけかわからないが、部屋の中ではそう決まったらしい。俺にとっては最悪な展開だ。だがここで嫌がれば仲間たちがますますつけあがることだけは確かだ。
俺がそういうものを怖がっているなんてことは、絶対に知られてはならない。
「そんじゃ、ひとりずつ二階の便所までいってトイレットペーパーをもってくること」
「一階じゃだめだぞ、二階だからな」
「階段のぼるまで見ているからな」
じゃんけんの結果、俺が一番になってしまった。おいおい、ついてないときはとことんついてないもんだな。
ドアから首だけを出して見送っている仲間たちに手を振って、俺は階段を昇った。一段ごとにギイッと耳障りな音がする。回りは静かで、本当に、一学年全員がこのホテルに入っているとは思えないほどだ。
階段をのぼりきって廊下を見ると、トイレのある奥の方はぼんやりと薄闇に閉ざされている。奥の蛍光灯が切れているのだ。手前の方の灯りも、ジジ…ッと嫌な音をたてている。ここが切れたら真っ暗になってしまうだろう。
(とっとと済ませてしまおう)
俺は飴色の廊下に足を踏み出した。
キイ……
廊下が甲高い音をたてて鳴く。くそ、こんな効 果音はいらないんだ!
蛍光灯が瞬く。光と闇の間に俺は一瞬、ありえないものを見た。
(え?)
誰かいる。トイレの前に。切れた蛍光灯の闇の中に。
「だ」
誰か二階のトイレを使っていたのだろうか。でもそうしたらどうしてトイレの灯りは消えているのだろう。今消したはずはない、だって最初からずっと暗闇で。
「誰、」
声はでなかった。のどの奥でそう言ったと思っただけだった。その影がいきなりぐんっと俺の目の前に。
「あああああっ!」
俺は弾かれたように後ろにとびすさった。目の端に階段が見えた。頭からつっこむ勢いでそこに飛び込み、ひどい音をたてて転げ落ちた。
「おい、なんだよ!」
「どうしたんだ!」
さすがに驚いたのか、一階のドアが次々と開く。
「なにやってんだよ、三島」
戸田があきれた声で俺の体を引き起こした。
「大丈夫か?」
「で、で、で……」
俺は戸田の肩にすがった。
「で、た……でた! でた!」
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