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その1
「なあ、聞いたか?魔物の討伐に行ったリーの部隊が帰ってきてないんだと」
「まあそうなのかい?リーの部隊って確か、あの美丈夫の隊長の『白ユリの隊』のことだろう?」
「そうさ、その白ユリの隊、軍は隠してるけど、なんでも日帰りで済むはずの討伐に出てから丸四日経っても帰ってきてないっつう、もっぱらの噂だ」
賑やかな宿場町で商売をして生計を立てている地元の民が集う朝市。ざわめきの中から聞こえてくる会話の中にいくつか軍の話題が登っていた。
(……町民にまで情報が流れはじめてしまっているか。さすがの軍も、もう隠し通すのは限界だな)
ヴォルフは人より感度のいい自分の耳の中に自然と入り込んで来てしまう人々の話の内容に、心の中でため息をつく。
(ああ、やはり止めればよかった。あの時に代わりに俺が出ると言えば……)
思えば、軍の上層部からこの宿場町の近くの山に最近現れるようになったという化け物の討伐にリーの部隊か、ヴォルフの部隊かどちらかが向かうように、との指令を受けた時点で嫌な予感はしていたのだ。
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