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【五月雨《さみだれ》に希《こいねが》う】
明日、とうとう結婚する。
友人の紹介で気の合った相手とトントン拍子に話が進み、知り合って半年で結婚を決めた。
天気は生憎、今夜から数日雨の予報。それでもいいの、大好きなあの子と一緒の合同婚だから。
シトシト振り続ける五月雨が窓枠に映る。
窓辺のロッキングチェアに身を沈め、瞼を閉じると夢うつつにあの人の記憶が蘇る。
「君を独りにするのが一番心残りなんだ」
若くして大病を患ったあの人は、最期まで病魔と闘った。
それは勇敢でしたよ。流石私の愛した人だと毎日褒めても足りないくらい。
薬の副作用が辛くても、私の前では涙ひとつ見せなかった。
本当は寂しさを、辛さを、悲しさを分かち合いたかったけれど。
きっと私が耐えられないことをあなたは知っていたのね。
お見舞いに来たお義母さんの前でだけ
弱音を吐いていたのを廊下で聞いた時、
どうしようもなくお義母さんに嫉妬して、
そして尊敬したわ。
未熟な私には、まだ到底真似出来そうになかったから。
「忘れないでくれ、それだけでいい。新しい幸せを、君だけの幸せを、願っている」
幸せな呪詛を、あなたは遺してくれた。
そうそう、あの日もこんな長雨だったわ。
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