退屈しのぎに

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 男は乱暴にドアを開けると、ピストルを突きつけて、こう言った。  「俺は強盗だ!金を出せ!」  タクシー運転手は、面倒くさそうに売上金を全部渡しながら、こう言った。  「そんなにがなり立てなくてもあげますよ。・・・奇遇にも、私も強盗をやったことがありましたから」  ポカンとしている強盗を尻目に、タクシー運転手は、また客を求めて車を走らせた。  最後に乗ってきたのは、制服を着た警察官だった。  「・・・のっぴきならない事情があって・・・。交番まで行ってくれないか」  タクシー運転手は、気遣うように声をかける。  「大変ですねぇ、警察官ってやつは」  交番前で降ろすとき、タクシー運転手は退屈しのぎに、こんなことを言った。  「・・・実は奇遇にも、私も警察官だったんですよ」  「えっ!?」  驚いた警察官が振り向くと、もうそこにタクシーは無かった。  ・・・その日の夕刊には不思議な記事が載った。  『交番前に貼られていた、三十年前の強盗事件の指名手配犯の似顔絵にそっくりなタクシー運転手の車に乗った警察官が、タイヤの跡をつけて行ったところ、森の中の廃屋に辿り着いた。    そこには、死後数十年は経過していると見られる男の亡骸があった。その男の傍らには、強盗事件の犯人のものと見られる証拠品と、その男のものであった警察手帳が転がっていた。  ・・・その強盗犯は犯行を犯した後、タクシー運転手からタクシーを乗っ取って逃走していた。後に乗り捨てられたタクシーだけが見つかり、犯人は行方不明のままだった。』  その記事が世間を騒がせている頃、とある空港から土砂降りの夜空の彼方へと飛び去って行く、謎の発光体が複数人に目撃された。  一連の事件を翌朝の新聞で知った、事件とは無関係のタクシー運転手がつぶやいた。  「雨の日には要注意。とても不思議なことが起きるから・・・」
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