私は死んだ

6/6
前へ
/6ページ
次へ
急いで葬式場に戻ると私の葬式は終わっていた。 家族も誰も居なかった。 私は一人だ。 生きていても、死んでも一人だ。 私はどこに行けば良いの? 悲しみや寂しさがあったが泣くことはできなかった。 実家の場所は ゆっくりと歩き出し実家へと足を向けた。 他に行く場所なんて無かった。 実家があるだけまだマシなのかも知れない。 また何日か経った。 どれくらい経ったかは分からない。 この前とは別の場所。 天へと向かう人々の列が見えた。 私は恋うようにそちらに足を向けた。 他に向かう場所なんてない。 死んだら死人が行くべき場所に行くんだ。 そうするのが自然の流れ。 もう死んだ理由なんてどうでも良い。 向かう途中にその列を見る男を見かけた。 大分歳をとった着物を着た男性だった。 「あなたは成仏をしないのですか?」 興味があった訳では無い。ただ同志が欲しかった。 「おお、俺はここで海に溺れないよう子供を見守る役目があるからのう。毎年溺れる子供が出るんだ。その度すぐ助けに行くんよ」 男性は笑顔で列に目を戻した。 「それって」 「君はここでやり残した事が無いならお行きなさい。俺は子供達を助けないと」 「はい」 あぁ、思い出した。 私は役目がないこの世界に嫌気がさして死んだんだ。 自分の好きなこと、やりたいことが見つけられ無かった。 だから死んだんだ。人気の無い森で、首をつった。 せめて好きだった木々の中で死にたかった。 きっと死体は動物に食べられているか、つられたまま腐っている。 場所はもう分からないけど。 私は死にたくて死んだんだ。 「頑張ってね、仏様」 「ああ」 男性は笑顔で私を見送り手を振った。 私は生きていても、死んでもやることが無かった。成仏した先でも私はきっと手持ち無沙汰なのだろう。
/6ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加