第三章 神の幻

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第三章 神の幻

 華やかなドレスを着せられ、ベッドの上に横たわる人形。その胸に据えられた透明の石が、ゆっくりと明滅を繰り返している。人形の周りでは、人形の持ち主である少年と、その親と、仲の良かった友人達が見守っていた。友人達の仲には、今横たわっている人形と同じようなクレイドールも何人かいた。  少年が横たわる人形の手をしっかりと握る。胸の石の光が段々と強くなり、明滅の速度も速くなっていく。  泣きそうな少年の表情とは裏腹に、手を握られている人形の表情は穏やかで、これから起こる事を全て受け入れているかのようだった。  人形の唇がゆっくりと動く。ありがとう。人形は確かにそう言った。その直後、胸の石が眩い光を放って砕け散った。  光が消え、周りを囲っている人と人形が一点に視線を送る。核である胸の石が砕け、息絶えた人形の枕元に、黄色いフード付きのマントを着た人物がいつの間にか立っていた。  彼は言う。 「君はここに居た。そしてここに居る」  それを聞いた他の皆は胸の中心に、人形は自らの核の上に手を当てて一礼する。そうしている間に、黄色い人影は消え去った。  どの人形も。クレイドールであろうとミネオールであろうと、命尽きるときにその幻は現れる。 「ちゃんと神様が迎えに来てくれた」  大切な人形の最期を看取り、寂しいけれども神様の加護があった事に感謝し、少年は涙を零す。  ひとしきり泣いて落ち着いた所で、人形をゆっくりと少年が抱え上げる。そして、いつも一緒に食事をするときに使っていた倚子へと運び、そこに座らせた。  いつか少年がこの家を出るときに、この人形の亡骸を連れて行くのか、それとも人形を弔う施設へと入れるのか、それはわからないけれども、まだ暫くこの人形はここに居るのだろう。
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