第三章 神の幻

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 広い花畑の中にある大きな社。その中に有る良く陽が差す部屋で、黄色いフード付きマントを着た青年が座り込んだまま額に手を当てている。その様子を、花畑から摘んできた花を持った小柄な人影が、常磐色の髪を揺らし不思議そうに見る。 「はすたぁ?」  その声にハスターははっとする。 「お帰りなさい、アザトース様」 「おーあ、あー」  花をしっかりと持ったままのアザトースが、自分の額をハスターの額に当て、ぐりぐりと動かす。  自分を心配しているのだろうと察したハスターは、アザトースを抱きしめて言う。 「ちょっと眩暈がしただけです。もう大丈夫ですよ」  それから、アザトースを膝の上に乗せ手に持っている花を一緒に見る。すると、頻りにアザトースがハスターの事を見上げ花を渡そうとした。 「くださるのですか? いつもありがとうございます」  ハスターが花を受け取ると、アザトースは嬉しそうな笑い声を上げた。  受け取った花をアザトースに見えるように持ち、反対側の手の人差し指で、花の上に円を書く。すると、花は途端に瑞々しさを失い硬質な輝きを纏った。  この社に迎え入れられてから、ハスターに与えられたのは、植物と鉱物を紐付ける力だった。宝石が樹に生るようにして欲しいとそう願い、叶えられたハスターは、その代わりに鉱物と、鉱物と共に生きる人形を司る神だと言われるようになった。  いちどきに沢山の人形が寿命を迎えると体力が持って行かれる。人形の最期の時、人間と人形の信仰により、自らの一部が人形の元へと呼ばれてしまうからだ。  それが煩わしいと思う事はあるけれども、人間たちから信仰を寄せられる事でアザトースの側に居られるのであれば、喜んでそれを受け入れる事が出来るのだ。  手の内にある、宝石になった花をそっとアザトースの髪に挿す。アザトースは花畑を指さして話し掛けようとしているのか、言葉にならない声を上げる。ハスターは、それをじっと聴いていた。
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