クモノイト

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殺生(せっしょう)しなければ私たちがもし地獄に落ちても(ほとけ)様が天から蜘蛛の糸を垂らして助けてくれるかもしれないでしょ?」  娘がまた私の方をちらりと見た。そうだ、いいぞ、良子ちゃん。私のことを覚えてるかい?  私は糸を垂らしてあげたかった。どうせならこの母子がまだ「生きているうち」に救いの糸を垂らしてあげたかった。 「ふ~ん」  娘が私の方を見ていた時、母親は震える手でゆっくりと炬燵(こたつ)のコードを娘の首に巻き付けた。駄目だ! お母さん、考え直すんだ! お金のことなんかで人生を台無しにするなんて間違っている! 「ごめんね、良子。もう……こうするしかないの」  そんなことはない。貧しくても幸せになれる方法はいくらでもある。私のことを思い出せ。さあ、早く思い出すんだ。“今なら”まだ間に合う! 「ぐっ!」  娘の断末魔が細く響いた。どうしてこんなことに。  母親はしばらく泣いていた。が、やがて夢遊病者のように立ち上がり、今度は椅子を踏み台にして炬燵(こたつ)コードを梁に結びつけ、その先を輪っかにした。 「良子、ごめんね……こんなお母さんでごめんね……」  母親は輪っかの中に首を入れた。  なぜだ、どうして私に気づかない? 今の私だったら君たち二人を救ってやることができるのに。
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