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ロッシュもキスツスも昏睡状態にあった十日近くの間に、ロッシュは悪魔と契約した事と、その力を用いて魔獣の増殖を試み、反乱を目論んだ事により逮捕された。アエトスは国民に大きな衝撃や不信を与えた。魔獣の頻出という近年の問題が解決に至った事と、大幅な部隊編成や精鋭部隊の結成などが公式に発表された。その隊長の担うヴィルト・ナイトは、副長となるキスツス以上に、ヒドラ討伐の任務において大きな功績を挙げた事や、反乱者であり悪魔の力を持っていたロッシュ・シュタインを模擬試合で倒した事や、人並外れた魔力量や高位魔法を持つ事などから、華々しく話題を攫っている状況だった。
「そういえば、副長…さっき寝言のようにおっしゃっていた『あぁ、そうか』って何のことですか?」
「え?」
「覚えていませんか?」
「いえ…覚えてるわ。実際、あれに自分でも驚いて目を覚ましたのよ。考えていたことが声になっていたから」
「あ、そうだったんですか」
「寝てる間に見た夢も、結構覚えているし…。皆の話し声も何となく聞こえていたわ。細かい内容は分からなかったけど、お見舞いに来てくれたり気に掛けてくれている様子は手に取るように伝わって、あなたが毎日のように顔を出してくれていたこともよく承知しているわよ」
レベッカは真っ赤な前髪の下、涙を溜めた真っ赤な目をして、忠義を誓った小さな上官を見つめ返した。キスツスは穏やかに淡々と応えた。
「さっきの寝言も…そうね、つまり、それよ。皆が私を大切に想ってくれているんだなぁと感じていてね、それで、ふと思ったのよ…。あぁそうか、これが幸せっていうものなんだなぁって」
「副長…!」
「ごめんなさいね、レベッカ。私、皆に気に掛けて貰えて『幸せ』だけど…こんな大怪我しちゃって、もう前線であなたの上官として戦えないかもしれないわね」
「そんなこと言わないでください…」
キスツスは魔力を放つ体質を知られた事や、ロッシュと相打ちとなった結果や、前回の任務の結果などを踏まえて、自分の置かれた状況に苦い思いを抱いたが、ヴィルトはそれを逆に幸運じゃないかと笑った。
「どういう意味ですか?」
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