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キスツスとヴィルトの脳内に警鐘が鳴り響く。ロッシュは、先ほどの試合の時とは纏う雰囲気も、感じる魔力の質も、既に全く別物だったのだ。説明しようのない危機感が二人を襲い、各々が武器を手に魔法の発動を始めてはいるものの、それはあくまで自己防衛本能による反射的なもので、今のキスツスの状態を考慮すればとても勝てる気がしなかった。寧ろ魔獣と対峙した時よりも圧倒的に死の淵にいる実感が、確かにあった。
このままでは自分達の命のみならず、アエトスもこの国も崩壊させるような、恐ろしい事態となる――。
考える間も無くヴィルトは叫ぶ。
「キスツス!お前の術を解け!!」
「!?ヴィルトさん、こんな時に何を…」
「こんな時だからだろうが!!」
「……!!」
キスツスが魔力を放出し続ける体質である事を、ロッシュは知らない。それも、一度に何人も殺せるほどの魔力である。それを制御する術を解けば、確かに勝機はあるかもしれないが、ヴィルトの身も危険に曝す事となる。
「分かりました。でもヴィルトさんは私から遠くへ離れ…」
「俺は死なない!!お前の魔石を俺に寄越せ!!」
ヴィルトは既に高位魔法を含めた二人分の魔力を持つ。魔石で一時的に力を強化する事でキスツスの魔力にあてられても相殺出来ると考えたのだ。無論、そこに保証は無い。
確かに、「今ここで倒しておかなければならない」というのはこちらもロッシュも考えている事であり、逃げる事など出来ない。一か八かで術を解くとしても、ヴィルトをどう説得しようと、自分一人を置いていくとは思えなかった。キスツスは選択を迫られていた。自分一人で戦うのとは真逆の選択を。そしてその選択には自分だけでなくヴィルトの命が懸かっている。
「出来ません…危険です!!」
「俺は、お前を越える!!!今ここで証明する!!」
「……!!」
それは、キスツスにとって「もう一人にはしない」という意味と同義だった。
そして彼女は、決断した。
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