プロローグ

1/3
前へ
/122ページ
次へ

プロローグ

「隊長…。あなたの花を…私があなたを…護り…救いたかった」  キスツスは遠い意識の中でシアンの最期の言葉を思い出していた。  後悔していた。彼の気持ちに気付けなかったことも。優秀な部下を死なせてしまったことも。彼の話を理解出来ずに、気の利いた返事どころか相槌も返せず、死に際に上官らしい言葉の一つも贈れず、今までの感謝の気持ちすら口に出来なかったことも。何もかもを。けれど、思えばいつもそうだったのだ。彼に限らず多くの仲間を失い、その度にキスツスは自ら弱さや選択を悔やんで来た。彼女は常に自身を許せないで居た。  そんな彼女をヴィルトは、認めた。自分を許せと言った。ヴィルトだけじゃない、仲間達が、自分を大切に想ってくれている事に、キスツスは今更気付いた。心が満たされる感覚も知った。 「あぁ、そうか…」  このひと言は声になっていた。久し振りに聞いた自分の声に少し驚き、目を開こうとしたが、思うように開かず、それでも何とか重い瞼を持ち上げた。薄く開いた瞼の間から差し込む光の眩しさに、再び目を細める。ゆっくりと何度か瞬きして目を慣らしていくと、レベッカの大きな瞳が視界に飛び込んで来た。 「副長…!副長…!!」 レベッカはボロボロと涙を零しながら、未だ動けないキスツスを抱き締めた。  レベッカの肩越しに、ヴィルトと目が合う。穏やかな空気を纏い、優しく笑うその目は、キスツスにとって初めて見るものだった。見知らぬ部屋の窓の向こうでは、白い竜が心配そうにこちらを覗いている。  どうやら「副長」とは自分の事らしく、そしてどうやら自分とここに居る皆は助かったのだと理解出来たが、詳しく状況を尋ねたところ、危ない状態ではあったらしい。キスツスとロッシュは双方が全ての魔力を放出し衝突させ、ほぼ瀕死になり、訓練場の建物や木々も多くが壊滅した。しかし、奇跡的にその衝撃波による怪我人はごく僅かで、自らを氷で防御したヴィルトに至っては無傷だった。
/122ページ

最初のコメントを投稿しよう!

6人が本棚に入れています
本棚に追加