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出先から戻るなり荒らされていたアジトを前に、青年は「仲間から裏切られた」状況を即座に察した。怒りが溢れていたが、同時に思考も巡らせていた。
「『金が要る』か…。つまり、俺の立場は脅かされたが俺の野望は消えない…」
青年は自分にしか聞こえないくらいの小さな声で呟き、踵を返す。何人掛かりであろうと、この場にいる者達を倒すだけの実力が青年にはあったし、怒りも収まってなどいない。殴り足りない気持ちはあるが、ここに長居している場合ではなかった。王都の裏に広がるスラム街で頂点に君臨している者の情報を高く買った者がいる、という事は遅かれ早かれ、更に望んでいない状況へ転ぶという事ではないか。
(俺一人ならともかく…)
自分の事よりも弟に関する情報のほうが価値があり、弟が持つ「力」を求める者のほうが圧倒的に多いだろう事を、青年は知っていた。
彼は、不安げにこちらの顔色を窺う弟へ視線を投げ、足早に歩きながら顎で出口を指した。
二人はアジトであった建物から急ぎ離れると、人目につかない道を選び、別の廃墟の中を通り抜けるべく走り出した。ずっと暮らして来たこの裏町から出ても生きていける道があるのか、孤児で元ギャングの自分達が暮らせる場所があるのか、先の事は分からない。
(それでも、とにかく今は出来るだけ遠くへ…)
入り組んだ路地を駆け巡り、二人が木造の廃墟に入り込んだのと、背後で「見つけたぞー!!」という叫び声が上がったのは同時だった。明らかに武器などの装備と思しき金属音や、複数人の気配があった。
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