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少年が触れるとたちまち床は変色した。それが急激な温度変化からだと見る者が気付く頃には、カビ臭かった古い木の壁と床が既に凍っていた。
少年の前に立ちはだかる男達は足元まで凍らされ、身動きが取れないことと、冷たさのあまり自らの足に感覚が無いことに、明らかな焦燥と恐怖を見せながらもそれら諸共振り切るように剣を下ろした。しかし、瞬く間に少年の手が放つ冷気から分厚い氷の盾が作られると、それは四方から向けられた刃を受け止めた。その内の一本が、氷を挟んだ向こうで折れるのを見た。
そうして、そのまま天井まで塞ぎ氷の壁を作って男達の行く手を阻むと、少年は踵を返して駆け出した。廊下の先でも、金属音と破壊音がして、戦闘状態を物語っていた。
少年が追いついた時、青年は三人の男に行く手を阻まれていた。
一人が振りかざした剣は青年にすんなり避けられ、そのまま右の拳一つで殴り倒されると、振り返り様の回し蹴りで二人目も目を回し、剣はやはり宙を切った。三人目は青年よりはるかに大柄で、熊が犬に襲い掛かるかのようだった。しかしその熊の懐に、犬が目にも留まらぬ速さで拳を出し入れしたかと思えば、大男は床に伸びていた。
「すげぇ…」
思わずそう零したのは少年の方だった。実際、ほんの少しの時間だけ氷を生み出せる自分より、魔法が使えなくても複数人を相手に戦える彼の方が、はるかに強いことを少年は知っていた。三人もの男を相手にしても、腰に収めた剣を抜いてすらいなかっただから。
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