オルター・洋子「龍平洋漂流記」より 第5章 真摯な男たち

11/12
前へ
/12ページ
次へ
 中心に進む夫婦の物語は違和感なく観ることができた。いかにも30代の夫婦の抱えそうな問題。だけど、その描かれ方が中途半端で表層的。夫に愛が戻ったが、妻はその時壊れてるというラストも解決策の暗示すらなく、夫婦ってそんなものじゃないよ?…と思った。あるいは、夫婦ってあんなものだよ、という結論に達した人が作ったのか。結論は人それぞれだからね。  松田龍平は演技も姿かたちも良かった。宇宙人演技が素晴らしすぎて(憑依レベル)、前半、もう私、龍平嫌いになった、と思ったほどだ。 弱ってきた長澤に「車の運転変わるよ」と言ったあたりから、宇宙人ながらも急に頼りがいが出てきて、愛の概念を得てからは、いつもの素敵な松田龍平に戻り、反動でいっそう好きになった。見た目的にはコーラルオレンジのテロっとしたシャツをカフスをきちんと留めて着ている後ろ姿とか、フワフワした前髪とかが、地球に落ちてきた「星の王子さま」そのままで嬉しかった。犬にかまれ、サンダルを飛ばして草むらに倒れている姿が、爆笑しながらも画面に走り寄って助けたくなる気分でした。松田龍平だけでしょ、草むらに横向きに倒れてるのが、あんなに似合う男の人。  ラブホで愛の概念を奪った瞬間から、声も目の光も、どこがどうと説明できないけど明らかに違う、あの感じ。あの夫婦にとっては多分すごく久しぶりの共寝、もっと言えば愛の行為だったのだろうけど、「真ちゃん、早く入ってきて、私の頭、今、愛ででいっぱいなの」というまさみは可愛かった。その後「おわっ、なんだこれ、全然違う」という第一声だけで、彼が変わったことがしっかり判って、観てる私の眠りかけていた気持ちが目覚めるような思いだった。あの瞬間の感動のためだけにも、この映画(この成り行き)観て良かったと思える。
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加