異国の蝶

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 言葉の通じぬ二人は、肌を合わせる事でしか心を伝える術がない。林は暗示のよう、ユーリンへの愛を指先に込めた。薄いシャツの上から細い身体のラインを辿り、背中の窪みに沿って這わせた指が神経に触れるたび、ユーリンは微かな身動ぎをしている。林は相変わらず優しいキスを続けたまま、その全てを探していた。  肩甲骨の下辺りを掠めた瞬間、痩せた身体がびくりと跳ね上がり、塞がれた唇の隙間からくぐもった声が漏れた。どうやら背中のその一点と、臍の脇が彼の核心のようだ。それを知ると、林は漸く唇を離し、ユーリンを真っ直ぐに見詰めた。上手く酸素が取り込めず、肩で息を吐きながら、漆黒の瞳は融けて煌めいている。なんて簡単なんだと驚きながらも、林はユーリンを軽々と抱き上げ再びベッドに沈めた。ユーリンはもう、抵抗はしなかった。それでも不安気な瞳が、薄闇の中で林を探し彷徨っている。  深い瞳を見下ろしながら、林は遂に乱れたシャツに手を掛けた。ボタンがぷつんと弾け、透けるように白い肌が露わになってゆく。黒いシャツから現れた裸体は肋骨の浮いた、決して褒められたものではない。まるで、人類の罪を全て背負い十字架に架けられたイエスそのものである。それでも、林はより深い欲情に駆られた。待ち切れず、首筋に唇を落とした瞬間、白い喉が待ち侘びたように震え、薄い胸が押し上げられる。林もまた待ち切れず、肌の色に映える薄桃色の胸の飾りを乱暴に摘み上げ、ユーリンの中に潜む性を目覚めさせることに全神経を集中させた。  指で、舌で、身体を暴いている内、細身のスラックスの中心に膨らみを見付け、林は遂にベルトに手を掛けた。驚いたユーリンがその手を止めようと再び抵抗を試みたが、時既に遅し。覆い被さるように密着した素肌は妬けるように熱く、もう身体を跳ね除ける事も、その魔の手から逃れる事も出来ない。一体これから何が成されるのか、知っているのかいないのか。ユーリンは終いには、硬く瞼を閉じた。その目尻から、光る礫が頬を滑り落ちて行った。
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