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一呼吸おいてから先輩は再度こちらを向き直ると僕に聞く。
「君、今日はちゃんと傘を持ってきてるの?」
「一応は。ずっと学校に置いたままだった傘があるので」
返答を聞いて先輩はまたあのいたずらっぽい笑顔でそれはよかったと言い、読んでいた本をカバンへとしまい荷物をまとめる。
「あれ?先輩もう帰るんですか?」
いつもは部活終わりの時間まで本を読んでいる先輩にしては珍しい行動だったので、思わず聞いてしまった。
「うむ。このまま待っていても雨はひどくなるばかりのようだしね。今日のところは早めに帰ることにしよう」
正直、名残り惜しい気持ちはあるが、僕には先輩を引き留める理由はないので、そのまま見送ることにする。
「そうですか。では、また明日ですね」
ところが、先輩はきょとんとした顔でこちらを見ると、何を言っているんだいと返す。
「君も一緒に帰るんだよ?それとも君は、傘を持ってない私にずぶ濡れで帰れというの?」
「…え?それで傘の事を聞いたんですか?」
「あぁ、だから君が傘を持っているときいて良かったと言っただろ?」
つまり、雨の話題を最初に振ってきたのも最終的にそれを確認したいがための遠回りなアプローチだったということか。
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