巴里

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 私は一人、川沿いの石畳を囲む柵によりかかり、ずっとあなたを待っていた。  日が落ち始めると急激に気温が下がる水辺で。心細いこの異国で。  空が高い。遠い。大きい。  なんて私の手に余るものなんだろう。まるであなたのようだ。  手が届くはずだったのに、風船を手離してしまった私には、もう空は戻らない。  日本に居ても、澄み切った秋の空はあなたと繋がっている唯一のものだと信じていた。 *  何隻もの舟を見送り、それらに灯りが入り、いよいよ心細くなってきた頃、あなたが現れた。  威圧的なノートルダム聖堂の向こう側に、掌に乗せたいエッフェル塔が光っている。水面の視界が常に揺れているのは不安だったせい。  あの人が走って来る足音が私の身体に響く。  もうすぐ抱きしめられる予感に、胸の鼓動が待ちきれずに騒ぎ出す。  彼が大切そうに包みを抱えて来たのは、ある秋の日のことだった。  やっと私、逢いに来たのに、こんなに待たせるなんて、どこまでも酷い人。  トレンチコートを翻して、あわてて走ってくる姿が幻じゃないといいと願って、何度も目に焼き付ける。 「待たせてしまったね。寒かったでしょ」  私をコートの中で抱きしめようとして、あっと両手を挙げる。  やだ、ホールドアップ? 「抱きしめてくれないの」  持ち上げた包みをそぉーっと降ろしながら 「これね、壊れ物なんだ。だから抱きしめるのは後でね」  彼は片手で私の頭を抱きよせ、唇を寄せる。  さっきまで甘栗齧ってたから、あなたに伝わるのはただの甘い欠片。  コワレモノなのは、私の方です。
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