巴里

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*  市庁舎の前に出現するメリーゴーランド。  その名で呼ぶよりも「回転木馬」で呼んだ方が似合うノスタルジア。  上下に揺れながらはしゃぐこどもたちはみんな、あたたかい毛糸のマフラーと帽子を身につけ、迫り来る冬にすら、しあわせ色に染まる。  尖がり帽子のような天辺。色とりどりの白馬たち。  丸い灯りがぽんぽん散りばめられてぐるぐる回る。  私はここに立つといつまでも帰りたがらずに、あなたを困らせたね。  彼が包みを開けて魔法のように取り出したもの。  目の前の本物もびっくりするくらい細かい細工。手のひらにずっしりと感じるアンティークの回転木馬の置物。 「気に入った? 君が来るって知ってからパリ中を探し回ったんだよ」  そこには、ほめてほめて、とウィンクするあなたがいる。  彼がそっと横についている手巻きねじを回す。ギュ、ギュ、ギュ。  あ、置物じゃなくて、オルゴール?   アイシングをかけたクッキー生地のように、クリーム色とビスケット色の木馬が交互に音楽に合わせて踊る。小さな世界が跳ねて、手を繋いだこどもみたいにはしゃぎ回る。  耳に当てて、その曲名を知る。 「Someday my prince will come」邦題「いつか王子様が」 「僕を選んでもらえますか?」  答えの代わりに、両手がふさがった私は背伸びをしてキスをねだる。  名残惜しい音に導かれたまま家路について、あたたかい毛布のあるあなたのところに。  ここが私が流れ着く終着駅だと信じて、包み込まれる。
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