氷の壁

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  予選は28人。一巡目の上位5人はそのまま勝ち抜け。二巡目無しで明日の決勝に進める。二巡目で、残り7つの椅子が争われる。決勝の滑走順は得点で決まる。タイチならトップ5は固いだろうが、明日の滑走順を見据えると一巡目に集中してとにかく点数を稼がなくちゃいけない。隙を作る訳には行かないぞ。 ハーフパイプ……氷の壁。いつ見てもデカいし怖い。足が竦むほど怖いのに………ここで飛びたいと思ってしまう。 「柊!」 声のする方に視線を移すと雪の上をタイチが走ってくる。赤いウェア、可愛い……!新鮮……! 「探した!どこいるか全然わかんなくてっ」 「うん、ここにいた」 「手!左手!」 タイチはさっと左手首を掬い、自分の左胸に押し当てる。ライド前の験担ぎ…… 今日もここに、お守りと指環が入っている。どんなに禁欲的になろうとも、タイチの行動原理は俺。俺だけがタイチを飛ばせてやれる。目一杯の念を送って拳を合わせると、雄大、クロード、ついでに16才の高校生ライダーまでわらわら走って来て、験担ぎを要求された。 「クロード、おまえも?」 「太一くんだけ一人占めはズルい!」 「ズルくはない。俺はあいつのチームのボスだ」 「柊さんは俺ら全日本チームのボスでもあるの!」 「ふ」
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