毀傷《きしょう》

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 ミカンの変化に気が付いたのは,私が十六歳,妹が十三歳の夏休みだった。  ミカンは一日のほとんどをお気に入りのクッションの上か,階段下の隙間に挟まるようにして寝ていた。  早朝と深夜に大福と家の中を走り回っているのは音でわかっていたが,お腹が空いたときとベランダに出たいとき以外は,ほとんど鳴かない大人しい猫だった。  八月に入っても私は外出することなく家にいた。わざわざ暑い外に出るのも嫌だったし,なにより日焼けをしたくなかった。そのため夏でも長袖を着ていたが,人前で肌を見せるのは大嫌いだった。夏休み中は部活動に参加するために学校に行くが,美術部だったこともあり家での作業のほうが圧倒的に多かった。  夏休みに入ってからというもの,エアコンの効いたリビングで妹とずっとNintendo Switchで遊んでいた。許さることなら,ずっと家の中で過ごしていたく,人と会うことも陽の光に当たることも避けたかった。  日中は母親もパートに行っているため,家の中は私と妹,ミカンと大福だけで,まさに至福の時だった。  ゲームに集中できるこの時間がなによりも幸せで,他に夏休みの楽しみといえば,叔父さんがCOSTCOで買ってきてくれたBen & Jerry'sのアイスクリーム詰め合わせを一日一個,妹と分けて食べるのが至福のときだった。
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