毀傷《きしょう》

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 妹がふたたびスマホに視線を落とすと,私は完全に独りぼっちになった気がした。さっき見たお婆ちゃんらしき女性の姿は幻覚だったのか,いったい自分になにが起こっているのかわからず混乱していたが,妹も両親もそんな私の様子にまったく関心を示さなかった。 「ねぇ,お婆ちゃんってさ……」 「え……? なに,お姉ちゃん?」 「うん……お婆ちゃんって,いつからボケちゃったのかな?」 「なに,急に。どうしたの?」 「ううん……お婆ちゃん,お父さんの前にしか現れないって言ったじゃん」 「うん……」 「なんで,私たちの前にも現れたんだろ?」 「ええ……? 別に私たちの前に現れたんじゃなくて,ごはん食べてるお婆ちゃんの前に私たちが行っちゃったんじゃない? 邪魔しちゃった的な……」  妹の発想は私にはなかった。それが正しいと思うと,少しだけ気持ちが楽になったが,さっき見た拷問のような光景は説明がつかなかった。  
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