毀傷《きしょう》

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「おまえ……お袋のこと,なにか知ってるのか……?」  父親の声が震えていた。 「なにって……? なんのこと……?」  張り詰めた空気が家族を包み込んだ。母親は口を挟もうとはせず,妹も父親の様子に驚いて黙り込んでいた。 「お……お袋の左手のこと……なんで知ってる? 誰から聞いた? もしかして世話人の誰かが健在なのか……?」  父親の震える声から,お婆ちゃんの左手のことが事実なのを悟り,さっき見た光景がただの幻覚じゃないことを確信した。お婆ちゃんを殴り,私を殴った男がお爺ちゃんである確証はまだとれていなかったが,あれがお爺ちゃんであることはなんとなく自信があった。 「お父さん……私,お婆ちゃんのオバケ見たって言ったじゃん……」 「ああ……」 「いまさっきも……お婆ちゃんのオバケを……っていうかお婆ちゃんの若いころを見たの……」 「若いころ……? ど……ど,どこで?」 「ここ……この,お店の中……たった,いま」 「え……?」
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