70人が本棚に入れています
本棚に追加
「おまえ……お袋のこと,なにか知ってるのか……?」
父親の声が震えていた。
「なにって……? なんのこと……?」
張り詰めた空気が家族を包み込んだ。母親は口を挟もうとはせず,妹も父親の様子に驚いて黙り込んでいた。
「お……お袋の左手のこと……なんで知ってる? 誰から聞いた? もしかして世話人の誰かが健在なのか……?」
父親の震える声から,お婆ちゃんの左手のことが事実なのを悟り,さっき見た光景がただの幻覚じゃないことを確信した。お婆ちゃんを殴り,私を殴った男がお爺ちゃんである確証はまだとれていなかったが,あれがお爺ちゃんであることはなんとなく自信があった。
「お父さん……私,お婆ちゃんのオバケ見たって言ったじゃん……」
「ああ……」
「いまさっきも……お婆ちゃんのオバケを……っていうかお婆ちゃんの若いころを見たの……」
「若いころ……? ど……ど,どこで?」
「ここ……この,お店の中……たった,いま」
「え……?」
最初のコメントを投稿しよう!