毀傷《きしょう》

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 サイゼリヤを出ると,外の蒸し暑い空気が全身に纏わりつき息苦しく感じた。やけに重たい真っ黒な空には星がなく,どこから空なのかわからない息苦しい闇が私を押し潰すようにゆっくりと堕ちてくるように思えた。真っ暗な闇は,白魚のような生物を隠すかのようにすべてを飲み込んでいるように見えた。  なにもない空を見上げてから家族四人で車に乗り,一番後ろにミカンと大福がいるのは初めてだった。窓から流れるような外の景色を眺めながら,これが家族旅行ならよかったのにと思い,この先二度とミカンと大福を含めて家族全員がこうやって揃うことはないような気がした。 「よかった……熱中症とかなってなかった。お腹空いたよね? ごめんね,私たちだけご飯食べてて」  一度家に帰り,ミカンと大福をケージから出した。ミカンも大福も真っ先に自分たちのご飯入れに走って行き,驚くほどガッツいてドライフードを食べ散らかした。  私と妹の荷物をまとめると,小さなスーツケースが閉まらないほど洋服を詰め込んだ。妹はいつもよりお喋りになり,下着を何枚持っていくか,どの服が必要か,いつ家に戻ってくるのかなどを一生懸命話していたが,目には大粒の涙が浮かんでいた。 「お姉ちゃん……ミカンと大福に会えなくなるの,寂しいよ……」 「そうだね……でも,お坊さんに来てもらってお祓いしてもらうまでだよ……きっと……」 「お母さんと別れるのも寂しい……」 「うん……でも,またすぐ会えるよ……」  妹はタオルで顔を押さえたまま肩を震わせて,声が漏れないようにして泣き続けた。その姿は私が車の中で二度と家族が一緒に過ごすことがないと感じたのを,妹も感じていたに違いないと思わせた。 「大丈夫だよ……きっと……また,みんなで一緒に過ごせるよ……」
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