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異形
ほんの数十分前まで家族全員で乗っていた車に再び乗り,父親の運転で叔父さんの家へと向かった。車窓から見る空はさらに暗さを増し,夜空がすぐ手の届くところまで堕ちているように感じた。
叔父さんの家でもお婆ちゃんが出てきたらどうするのか心配したが,父親は予備のお札が家の中の小さな神棚にあるので,それを家中に貼っておけばお婆ちゃんはあの家から出られないだろうと楽観的だった。
「本当に見えてないんだ……さっきまで窓に張り付いてたのに……」
縫うようにして住宅街を走ると,大きな橋を渡って開けた場所に叔父さんの家があった。叔父さんの家は子供がいなかったので,私たちが泊りにくることを喜んでくれた。ただ,ほんの数時間前に聞いた話が頭から離れず,昔からガリガリな叔父さんもお婆ちゃんを殴っていたと思うと,まっすぐ顔を見ることができなかった。
叔父さんもお婆ちゃんのことは知っているようで,なにも言わず,なにも聞かずに接してくれた。実家とは違う匂いに慣れるまで時間はかかりそうだったが,叔父さんも叔母さんも私たち姉妹に優しく接してくれた。
部屋も私と妹で別々に用意してくれ,家とは違うフカフカの高級な布団が準備され掛け布団もやけにオシャレだった。
「お姉ちゃん……一緒の部屋で寝ていい……?」
「うん,いいよ」
「変な感じだね……あの叔父さんが暴力とか……想像できないよね……」
「うん……」
「やだね……暴力をふるう男の人……」
「うん……」
「お婆ちゃんさ……昔の記憶が一切ない,ボケちゃった姿が一番幸せだったのかな……? だから,ボケちゃったままオバケになったのかな……?」
「そうかもね……」
「可哀想だよね……」
「うん……。ねぇ,もう寝よ……寝れる?」
「わかんない……。でも,寝てみる。おやすみ,お姉ちゃん」
「おやすみ……」
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