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闇を切り裂くように白い線が見えたかと思うと,再びヒュッという風を斬るような音がしたと同時に小さな頭が宙に舞った。小さな頭は空中でわずかに向きを変えて,静かに回転しながら床に落ちると不規則に転がった。
首を失い残された小さな身体は相変わらずテレビのほうを向いて脚をぶらぶらさせていた。しばらく首のない身体が当たり前のように椅子に座っていたが,突然痙攣しはじめると,テーブルをしっかりと両手で掴み,身体を支えながら綺麗に斬られた首の断面から大量の泡と一緒に血が湧き出した。
『ひぃぃっ!』
声にならない悲鳴にも似た音が口から洩れた。残された身体から噴水のように血が噴き出すと,残りの二人の子供が不思議そうに身体だけになった首のない兄弟を黙って眺めていた。
細かい霧状の血が天井に当たり辺り一面を真っ赤に染め,鉄のような臭いが部屋いっぱいに充満した。二人の子供はなにもなかったかのように無関心なまま,横でグラグラと揺れる頭部のなくなった兄弟の身体に興味を示さすことなく再びテレビに身体を向けて座った。
大きな刃物を滑らせた母親らしき女性はテーブルに刃物を突き刺すと,床に転がる子供の頭を優しく拾い上げた。そして無言のまま脚を大きく開いて中腰になると,ゆっくりと子供の頭をスカートの中にねじ込んだ。そのままの態勢でしばらく動かなかったが,突然身体を震わせると,立ち上がって背筋を伸ばした。
残された身体は自分の手でテーブルをしっかりと掴んでいたが,女性が近づくと同じように崩れ落ち,床の上でトロトロと溶けて消えてゆくと同時に女性のお腹が妊婦ように大きく膨らんだ。
『え……? どうゆうこと……?』
女性はよく見えない表情を一切変えることなく,突然身体の向きを変えて私のほうを見ると,微かに首を傾げてみせた。
『なんで……? なんで,子供を……?』
私に興味を示すことなく,大きなはち切れそうなお腹を優しく撫でるように両手で支え,テレビを観る子供たちの横に音を立てずにそっと座った。お腹を支える左手は指先がなく,やけに手が小さく見えた。
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