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いびつに歪んだ背中を丸めるようにして,女性は残された二人の子供の横に座り,離れて座る小さな男の子の頭に腕を伸ばして優しく撫でた。二人に挟まれて座る子供は,その伸びきった腕に気づくことなくテレビに身体を向けていた。
『ねぇ,お婆ちゃんなの……? なんなの? これ,幻覚? 夢? 超キモイんだけど……』
私の声に反応したかのように女性はゆっくりと立ち上がると,私のほうを向いて顔だけを近づけてきた。ゆっくりと近づく顔に距離感がわからず,遠くにいたと思っていた女性の顔だけがいつの間にか目の前にあるように感じた。身体は遠くのテーブルに残っているようで,不自然な距離感に得体の知れない恐怖を感じた。どこか懐かしさのある細かい傷だらけの女性の顔が,ほんの一瞬優しく見えた。
『ゴメンナサイネェェ……コドモタチ……ツレテイクカラァァ……』
『え……? どうゆうこと?』
真っ黒な影がゆっくりと遠ざかっていくと,子供二人を残したまま大きなお腹を支えるようにして立ち上がった。ゆっくりと消えていくその手には,大きな刃物と大人の男の人の頭がぶら下がっていた。
その頭は汚らしく,目や口から蟲が湧いてこぼれていたが,刎ねられた首の薄くなった白髪部分は丁寧に飾り付けられていた。
『ちょっ……それ,だれ……? だれの頭……?』
「ゴメンナサイネェェ……チャントォォ……ツレテイクカラァァ……」
『なんで……なんで片言なの……前に見た時はちゃんと話してたじゃん……急になんなの……?』
真っ黒な影からは敵意のような禍々しい雰囲気はなく,優しさすら感じるどこにでもいる母親のような印象しかなかった。そのせいか恐怖心はなく,ただただ目の前で起こっていることが理解できず,なぜ子供の首を刎ねたのか,なぜ妊婦のようにお腹が膨らんだのか理解できなかった。
『お婆ちゃんなんでしょ……なんで私にだけ……? もしかして,私も連れて行かれちゃうの……?』
「ケガレタ チ ノ コ……チャントォォ……ツレテイクゥゥ……ククク……ケガレ……ケガレェェ……ケガァァレェェェ……」
チリチリと遠くから雑音が流れ,女性のシルエットが真っ黒な闇の中に溶け込んで消えていった。微かに私の頬を撫でていくような素振りをした,妊婦のようにお腹の膨らんだ女性の短くなった指が最後に見えた。
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