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急に身体から力が抜け,横になっているのがわかった。それが暗闇の中なのか,それともまた別の場所なのかはわからなかったが,身体を包み込む布団の暖かさがかえって私を戸惑わせた。
誰かの寝息が聞こえる暗い部屋の中で,焦点の合わない視線が行き場を求めて彷徨った。自分がどこにいるのかわからず,窓を覆うブラインドの隙間から微かに差し込む街灯の灯りを凝視した。ほんのわずかな淡い光が部屋の一部をぼんやりと明るくしたが,その淡い光がさらに私を深い闇に吸い込んでいった。
『ここ……どこ……?』
無意識に足元にミカンと大福がいないか手を伸ばして確認した。しかし,どこに手を伸ばそうと,二匹ともここにいる訳がないことすら理解できないほど混乱した。しばらく布団の中で二匹を探して手と脚を動かしているうちに,落ち着きを取り戻した。
『そっか……叔父さんの家にいるんだった……』
どんなに探してもミカンと大福に触れられないことが,これほど寂しく感じるとは思っていもみなかった。会いたくても会えない寂しさと,猫の体温や匂い,肌触りを感じられないのが辛かった。つるつるの掛け布団は私の体温で暑くなったのか,妹は脚を外に出して掛け布団を拒否するような姿勢で寝息をたてて寝ていた。
『夢か……お婆ちゃんとちゃんと話したことないから,あれが本当のお婆ちゃんかわからないし……でも,左手がやけに小さかったから,お婆ちゃんなんだろうな……』
布団の中で身体を丸めて小さくしたが,さっき見た光景が頭から離れずお婆ちゃんの腰にぶら下がっていた大人の男の人が誰だったのかを考えていた。
ほんの一瞬だったが,ぶら下がる顔を見たとき,皴だらけの顔のあちこちが腐り,皮膚が破れたところから蛆虫がこぼれ落ちているのを思い出した。それでいて髪の毛は綺麗にまとめられ,身体から斬り離された首の断面は薄汚れてはいたが,かつては美しかったであろう布で飾り付けられていた。
『なんだろ……めっちゃキモかったな……』
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