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朝の柔らかい陽射しがブラインドの隙間を通り抜け,部屋にストライプ模様を浮き上がらせた。自分の家にはなかった光景を眺めながら,横で寝息をたてている妹の髪の毛をそっと指でなおした。
妹の髪の毛をなおす私の腕にストライプの光の線が入って見えたが,同時に腕の内側に刻まれた薄っすらと浮かび上がる何本もの細い線と交差して格子模様のように見えた。
私の腕には,中学生のころ,虐めにあっていたわけでもないのに勝手に不登校になり,親に隠れてリストカットしていた跡がいまでも微かに残っていた。その傷を隠すために,いまではどんなに暑い日でも,ずっと夏でも長袖を着ていた。
夏休みに入っても誰とも遊びに行かないのは,単純に友達がいないだけだったが,日焼けをしたくないから外出しないと言ってごまかしていた。こうやって改めて見ると,ファッション感覚で傷つけた腕に残る幾つもの線は,わずか数年でほとんど見えなくなっていた。
「これのことかな……穢れた血の子って……」
あのころは,純粋にカッコイイと思って自らの肌に傷をつけていた。その反面,煙草の火を肌に押し付けてつくる根性焼きは,下品でしかないと思っていた。当時は子供心に腕の内側に薄っすらと残る何本もの線が,まるで模様のようで綺麗だと本気で思っていた。
それでもこの腕に残る線は,親には見せられないと思い常に長袖を着てずっと隠していたが,ときどきこうやって誰にも見られることなく,微かに残る私しかしらない傷痕を一人で眺めているだけで今でも満足だった。
「やっぱ叔父さんたちが見たら気持ち悪がるかな……これ……」
シャツの袖を伸ばして痕を隠すと,壁や天井に浮き上がるストライプの線をぼんやりと眺めた。線はゆっくりと向きを変え,幅を広げて部屋のなかを照らしていった。
「それにしても,ここんとこ,なんでお婆ちゃんの幻覚ばっかり見るんだろ……幻覚っていうか夢……? それともオバケなのかな? あの白いウネウネした蛇みたいなやつもオバケなのかな……だとしたら,なんのオバケなんだろ……」
部屋が明るくなると壁の模様がはっきり見え,遠くでラジオ体操をしている音楽が窓の向こうから聞こえた。
「へぇ……この辺の子はラジオ体操に行ってるんだ……」
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