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その晩,母親が帰ってくるころにはミカンはいつも通りに歩いていて,近くを通りがかった大福にチョッカイを出して走り回っていた。
走り疲れて転がるように横たわるミカンが後ろから大福に襲われて不機嫌に鳴いている姿は,病気や怪我をしているようにはみえなかった。
母親はそんなミカンを見て不思議そうにしていた。
「あんたたちがゲームばっかりやって遊んであげないから,演技でもしてたんじゃない……?」
「そんなことないよ! ちゃんと遊んでるもん!」
妹は言い返したが,実際にゲームばかりで猫たちをかまってあげていなかった。
「本当かな~ミカンと大福が運動不足にならないように,あんたたち家にいるんだったら遊んであげないと。この子たちだって,あんたたちが家にいたら嬉しいだろうし」
「うん……わかった。明日,いっぱい遊ぶ……」
「それから,お姉ちゃん。ちゃんと部活動に行ってる? 大丈夫? 夏休みだって部活あるでしょ? まぁ……ちゃんと学校に行けてるってだけでも,お母さんは嬉しいけど……」
「うん。行かなきゃいけないときは行ってるから大丈夫。それに行っても全然人いないから,あんまり意味ないし」
「そう……よかった。じゃあ,あんたたち,ちゃんとミカンと大福を運動させてね」
「わかった……」
母親が台所で晩御飯の準備をしている間,ミカンは何事もなかったかのように家の中を走り回っていたが,気のせいかその動きはいつもより体が重そうに見えた。
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