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「お婆ちゃん……ちょっと人とは違うっていうか……その……なんていうか……」
「なに……? なにを知ってんの……?」
妹が膝を抱え込むようにして自分の額を膝に押し付けた。髪の毛で表情は見えなかったが,怯えているようにも,楽しんでいるようにも見え,なんて声をかけてよいのかわからず,言葉が出てこなかった。妹の肩が微かに震えていたが,その様子が不気味に見え,私を混乱させ警戒させた。
「ねぇ,どうしたの? ちょっと,大丈夫?」
「あのね……お婆ちゃんね……子供の頃から美人で有名だったんだって……でもね,そのせいか,まだ小さかったのに……大勢の大人たちに女として扱われて……好きとか嫌いとか関係なく……ただ男達の欲望の捌け口にされてて……」
「え……? いきなり,なに言ってんの?」
妹が顔を上げると,髪の毛の間から私の知る妹とは違う,不思議なほど澄んだ,少しでも油断すれば一瞬で心を奪われてしまいそうな見たことのない真っ黒な瞳が私を見つめた。その瞬間,金縛りにでもあったかのように,全身から力が抜けて指先すら動かせなくなった。
「お姉ちゃんは,ちょっとだけお婆ちゃんに似てるって……」
「え……?」
「その容姿はね,若いころの……うんと若いころのお婆ちゃんに似てるんだって……」
「なに……言ってんの?」
「ふふふ……でもね。お婆ちゃんね,壊れちゃったの……ずっと,ずっと幼いころに……今のお姉ちゃんよりずっと幼いころに……」
「な……なに,言ってんの……?」
「お婆ちゃん……耐えられなかったんだって……大人たちに酷いことされるの……すごく怖くて……すごく悲しくて……誰も助けてくれなくて……」
「どおゆうこと……?」
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