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「だからね……お婆ちゃん,自分で自分の精神を……わざと壊しちゃったの……」
澄んだ瞳に真っ黒い得体の知れない,墨汁を垂らしたような鈍い光が射し込んだ。そのままその瞳をまっすぐ私に向けると,微かに口元を緩ませた。カサカサに乾いてひび割れた青白い唇がゆっくりと開き,真っ黒な歯茎が糸を引いているのが見えた。
『ギギギギギギ……ギギギギギギ……』
笑い声とは思えない不快な音が妹の口元から漏れると,すぐに表情が冷たくなった。
「どんなに精神が壊れても,大人たちはお婆ちゃんの若い身体を求めたの……精神が壊れても,ずっとずっとお婆ちゃんの精神と身体は悲鳴を上げ続けたの……誰も守ってくれない……誰も助けてくれないってわかってたのに……たった一つの想い出だけを……」
「そんな……」
「だからお婆ちゃんは精神だけじゃなく,身体も壊すことにしたの……」
「…………」
「でもね……その痛みは……幼いお婆ちゃんには辛すぎたの……大人たちに与えられる痛みとは違う,自分で自分を壊す痛み……涙が止まらなくて……怖くて……辛くて……誰も助けてくれなくて……」
「…………」
「だからお婆ちゃんが大人の身体になったとき,お婆ちゃんの過去を知らない,お婆ちゃんのことを誰も知らない遠い土地の……お爺ちゃんが……お婆ちゃんをお嫁に迎えたとき……お婆ちゃんはなにも知らないお爺ちゃんに望んだの……」
「な……なにを……?」
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