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「え……? え……? なに……? どうしたらいいの……?」
倒れて動かない妹の身体に触れようとしたが,恐怖で身体がそれを拒否した。目の前にいる妹は本当に妹なのか,お婆ちゃんが乗り移ったとしか思えないその身体に触れてよいのかわからず手が伸びなかった。妹はいつもと変わらない姿ではあったが、たったいま目の前で起こったことが私を混乱させた。
「そういえば,サイゼでお婆ちゃんを見たときも,妹が……妹の姿がお婆ちゃんになってた……? え……? なんで……? なんなん……?」
横たわる妹の指先が微かに動いたかと思うと,腕がだらんと垂れ下がり,フローリングの床を爪先で叩いた。爪の音が部屋に吸い込まれていくと,まるで時間が止まったかのような静寂が私の感覚を麻痺させ,なぜか私の指先が震えだし目蓋が痙攣した。
しっかりと両手を握り締め,拝むような姿勢で目の前で倒れている小さな背中が,ゆっくりと微かに上下するのを黙ってみていた。どれくらいの時間が経っているのかもわからず,なにもできないまま,ただそこにいるしかできなかった。
「あれ……お姉ちゃん……?」
妹の擦れるような小さな声を聞いて,緊張の糸が緩んだと同時に罪悪感にも似た感情が沸き上がってきた。微かに意識が戻った妹は,相変わらず倒れたままで身体を動かそうとはしなかった。
「大丈夫? 救急車,呼んだほうがいい?」
「いらない……呼ばなくていい……」
「本当に……? 大丈夫……?」
「うん……」
妹の手は,不自然な向きのまま相変わらず床にだらりと垂れたままだった。うつ伏せになっていたので顔は見えなかったが,具合が悪いのか,疲れ切っているのか,まったく動こうとしなかった。
「ねぇ……お姉ちゃん……」
「なに……?」
「また,お婆ちゃんに会った……」
「え……?」
「夢みたいな……でも,ちょっと現実っぽいような……不思議な感じ……めっちゃキモかった」
「お婆ちゃん,なんか言ってた?」
「うん……よくわかんないこと言ってた……」
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