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妹はうつ伏せのまま動こうとせずにボソボソと言葉を続けた。
「お婆ちゃんね……私と同じ歳のときに子供を堕ろした……。その後も……何回も……何回も何回も大人たちから忌み物にされるまでずっと……何度も何度も子供を堕ろして……」
「忌み物って……?」
「役立たず……用無し……汚らわしくいらない者のこと……お婆ちゃんが教えてくれた……」
「そ,そう……で,お婆ちゃんは,ほかになにか言ってた?」
「うん……」
妹がゆっくりと寝返りを打つようにして身体の向きを変えると,そのまま起き上がってソファに沈み込むようにして座った。
脱力した身体からは生気を感じることができず,まるで重い病気を患っているように見えた。焦点の定まらない虚な眼差しが部屋の片隅をぼんやり眺め,真っ黒な瞳が小刻みに揺れていた。
「お婆ちゃんね……ずっとずっと昔……まだ本当に幼いころに近所に大好きだったお兄さんがいたんだって……ずっと歳の離れた,背の高いお兄さん」
「…………」
「そのお兄さんが初めてお婆ちゃんの手をつないでくれたとき,その手を白くて綺麗だねって褒めてくれたの……」
「そうなんだ……」
「それが本当に嬉しかったんだって……まだ穢される前の話……ずっとずっと前の話……」
「穢されるって意味がわかんないんだけど……」
「お姉ちゃん……知らないほうがいいよ……」
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