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妹は手をひらひらさせながら,ぶつぶつとなにかを呟くように歌を唄っていたが,その声は私には届かず妹の口から発せられる言葉が部屋の中をふわふわと浮かんでは消えていくように感じた。
「ねぇ,お婆ちゃんってさぁ……なんで私達の前に急に現れたのかな?」
「さぁ……私には見えないっていうか,なんかお姉ちゃんと私は,お婆ちゃんの感じ方っていうか,色々違うじゃん……」
「そうだよね……」
「私のほうがさ,結構辛いほうじゃね? お姉ちゃんは見る側だけど,どっちかっていうと私,見られる側っていうか,なんか私とお婆ちゃん,変なリンクをしてるように思えない……?」
「うん……なんかごめんね」
「まぁ,私達が選んだわけじゃないから,しょうがないけど……。やっぱ,キツイよ……でも,お婆ちゃんがもう少ししたら私達の前から消えるって言ってたし……なにかを見つけたって」
「それ……お婆ちゃんが言ってたの?」
「言ってたっていうか,頭のなかでそう聴こえたっていうか……」
「そうなんだ……」
妹は虚ろな目をして,再び聞き取れない歌を口ずさんた。その口元はだらしなく緩み,微かによだれが垂れていた。意識が朦朧としているようだったので,少し大きい声で話しかけてみた。
「お婆ちゃん,早くお祓いされるといいね!」
「う……ん……。そう……だね。お……お姉ちゃ……ん」
眠そうな虚ろな目を私に向け,たどたどしく答える妹の唇から糸をひくようによだれが垂れた。
その間,微かに動く唇から漏れ出すように呪文のような歌声がゆっくりと部屋を埋め尽くしていった。もう妹に声を掛けても,ぶつぶつと何かを口ずさむだけで反応することなく,天井を見上げたままよだれを垂らしていた。
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