異形

19/20
前へ
/177ページ
次へ
 しばらくして妹の呼吸がゆっくりと規則的になったかと思うと,そのまま寝息をたてはじめた。  呼吸がしやすいように鼻に詰めていたティッシュをとり,様子を見ていたが苦しそうな雰囲気はなかった。音をたてないように立ち上がり,ハンカチを持って洗面所へ行き洗面台でハンカチを濡らして軽く絞った。  部屋に戻ると寝息を立てる妹の血で汚れた顔を優しく撫でるように拭き,血の跡が残らないように顎から首筋までを何度もハンカチを洗っては拭いて,繰り返し綺麗に拭き取った。  パジャマにも血がついていたので,寝ている妹をそっと抱きかかえて着替えさせた。気持ちよさそうに寝息を立てている妹を,ベッドにバスタオルを敷いてから移動させ,細くて柔らかい髪の毛をなおした。  部屋のなかは明るくエアコンも効いていたが,妹の身体は異常に熱く不安だった。何度か汗を拭いてから冷凍庫に入っている保冷剤をタオルに巻いて枕の上に置いた。ブラインドを降ろしていても部屋に陽射しが入り込み,明るい部屋で妹の寝息だけが聞こえた。 「なんでお婆ちゃんは妹に怖いことするんだろ……なんで,妹にはお婆ちゃんの姿が見えないんだろ……それにお婆ちゃんはなにを見つけたんだろう……」  いつの間にか部屋の中に透明な白魚のようなウネウネと動き回るモノが浮かんでは消え,壁から現れたかと思うと反対側の壁へと消えていった。 「また,この白っぽいやつだ……マジでなんなんだろ,これ……?」  部屋のなかを白魚のような生物がウネウネと泳ぐようにして目の前を通り過ぎて行った。ほぼ透明で細長いその身体はつるんとしたビニル袋のようにも見えたが,近くで見ると頭の部分だけはゴチャゴチャと凹凸が見えた。 「キモッ。マジでこいつら,オバケの餌なの? お婆ちゃん,こんなの食べてんの?」  妹の微かに開いた唇の前をウネウネしたモノが通り過ぎた瞬間,無意識なはずの妹が微かに口を開いてそのウネウネを食べようとしているかのような動きを見せた。 「ちょっと! なに? なんで口動かしてんの!?」  慌てて妹の顎を握り締めるように掴み,口が開かないように手に力を入れた。
/177ページ

最初のコメントを投稿しよう!

70人が本棚に入れています
本棚に追加