毀傷《きしょう》

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「ねぇ……お姉ちゃん……」 「なに……?」  妹が不安そうに私を見た。 「ミカン……なんか見てたし……なんか喰ってた……」 「うん……。やっぱ……そう見えるよね……」 「絶対,なんかいるし……なんかを追いかけてるよ……」  妹に言われなくても同じことを思っていた。ミカンの目がやけにギラギラし,太く膨らんだ尻尾を高く上げた状態で身体を斜めにしながら走っていく姿は,ミカンが仔猫のときに見せたのと同じ姿だった。 「お姉ちゃん……見てきてよ……二階」 「え……一人で? 怖いよ……」 「変な虫とかいたら,怖いじゃん」 「変な虫とか……お姉ちゃんのほうが無理だよ……」 「じゃあ,不審者! 不審者がいるかも知れないじゃん!」 「不審者とかもっと無理! なに怖いこと言ってんのよ!」  妹が言っていることもわかっていたし,私が確認しないと収まらないのもわかっていた。エアコンの効いたリビングから出たくない気持ちもあったが,ミカンの様子も確認する必要は感じていた。  それに家の中に誰かいるはずもないし,もしいたとしたら大問題だった。二階へ走って行ったミカンを連れ戻せばいいと自分に言い聞かせた瞬間,激しい足音とともにミカンが頭から突っ込むようにリビングに飛び込んできた。  耳を後ろにペタリと寝かしたまま走り過ぎていくミカンを見て,心臓が張り裂けそうになった。 「お姉ちゃん……見るだけ見てきて……」 「わかった。じゃぁ……見てくるから,ミカンと大福を見張ってて……」 「わかった……」
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