森の少女と町の男

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 夜明け前、浅い眠りから覚め、まだ暗い夜空で光る星を眺めているとまた彼女に会った。 「空がそんなにめずらしいですか?」 「まああっちでは空はもっと窮屈だったし星なんてまったく見えなかったな」 「そうでうすか、それじゃあついてきてください」  見せたいものがある、そういわれて小高い山を登っていった。登山なんて経験したことがなかったが先を行く彼女はなんともないのに自分だけぜーはー言いながら登っていたのが無性に恥ずかしい。 「そういえばどうして首都から出てきたんですか? あそこは外からすれば憧れの場所なのに、つらいことでもあったんですか?」 「あんなのただの箱庭だよ、隔離施設のようでもあったな。でてきた理由は単にさみしかっただけかもしれない、よく覚えてないんだ」  酒のせいでよく覚えていない。でもあそこで生きていてずっと孤独に耐えていたというのが一番の理由だった気がする。  息切れでうつむいていたから今まで気づかなかったが、山の頂上はこれまでにない開放感を与えてくれた。 「もうすぐですよ」  彼女が地平の向こうの明るくなってきた空を見つめて言う。 「日の出を見たのは今日が初めてだ」  そうですか、そういいながら彼女が向き直る。 「今まではさみしかったのかもしれません、でもあなたはもう独りではありません。私がついていてあげますから」  朝日に照らされる彼女の笑顔は生涯忘れることはないだろう、そう思った。  それから村での生活が始まった、彼女は両親を三年前に亡くしており。兄弟もいないためずっと一人で暮らしていたらしい、孤独を感じていたのはお互い様かもしれない。日中は別々にすごしていても夜には同じ場所に帰る、それだけで楽しかったし楽しい時間はあっという間にすぎていった。  一週間後、異変が起きた。彼女が高熱を出したのだ、村の仕事も休みをとってつきっきりで看病していたが改善の見込みはない。薬草なんかを煎じて飲ませたりすると少しだけ楽にはなるようだが回復はしない。そんな感じで二日がたつとちらほら他の村人にも似たような症状の病気を発症し始めた。まず老人や子供たちがたくさん倒れていった。五日後には村人のほぼ全員が発症し、すでに指では足りないくらいの人間が目を開かなくなった。唯一その病気にかからなかったのは俺だけだった。
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