誤算と誤解

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 箪笥を開けて驚いた。扉の内側に貼られていたのは並びに並んだ僕の写真。ああ、素敵。本当に君は僕のことが大好きなんだね。定食屋の僕、欠伸をする僕、駅の改札を通る僕。こんなにたくさんの僕がいる。  綺麗にアイロンがけされたシャツが数枚下がっている。体格はそんなに変わらない、こうやっていろいろなものをシェア出来る、なんて素敵な恋人だろう。シャツにはクリーニング屋のタグもない。きっとアイロンかけたのは君。袖を通すと柔軟剤の淡い香りと微かに鴻池の匂いがする。  「あ、駄目だ。これ着ているだけで勃っちゃいそう」  一人残されて寂しかったけれど、今はもう足取りも軽い。用事も無いのに自然と足は総務へ向かう。どうして僕を残していったのかきちんと説明してもらおう。いつもの様に下を向いて黙々と仕事をするその姿、可愛くて食べちゃいたい。いや実際はもう頂いちゃったんだけれどね。熱い視線を送ってみても君はやっぱり気が付いてはくれない。  「ん゛!」  わざと大きな音で咳払い。気が付いてよ、鴻池。  「あ、あ……あ」  「おはよ、鴻池!」  声をかけると、君が驚いた顔をして動きが不自然になる。そしてこのタイミングで眼鏡がずり落ちる。あ、この顔好きだと思うけれど、君のその焦った顔に泣きたくなる。やっぱり後悔しているの?  「あ、あの……お、おはようございます」  「あ、シャツ借りたよ」  「はい」     
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