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誤算と誤解
僕にしがみつくようにして身体を丸めて眠っていた君。腕枕をしてあげて背中をさすってあげた。恋人を抱きしめて眠ったよ、それなのに今僕は一人で君のベッドで目が覚めた。
「鴻池、いないの?」
声をかけてみたけれど、どこにも君はいない。目を落とすと部屋の中心にあるテーブルの松子の隣にメモがある。
『本当にすみません、昨日はごめんなさい。先に仕事に行きます。鍵はポストにお願いします。アラームかけておきます』
すみません?ごめんなさいって何?泣いちゃうよ、僕は意外と繊細なのだから。鴻池は我に返って、後悔したのかな?
君の初体験が多少、いや、ほんの少しだけ刺激的だったのは認めるよ。でも念願の相手じゃなかったの?
のろのろと起き上がりふと気が付いた。会社に着ていくスーツは昨日と同じ、シャツは皺だらけネクタイも昨日と同じ柄。時計を見ると朝の七時、今から自宅へ戻り着替える時間は残っていない。けれどこの恰好では会社に行けるはずもない。鴻池の箪笥からシャツを一枚失敬しても許されるはず。
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