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真剣な顔で答えたレンが、額にキスしてきた。直後、ニヤリと吊り上がった唇が、世にも恐ろしい告白を言いつづる。
「さっきみたいな激しいプレイはしないから、安心してね。そ~っと、優し~く抱くからさ」
「結局ヤるのかよ!?」
凝然と見返した先で、底無しの性欲に満ち溢れたパートナーが美しく微笑んだ。
「I love you, my sweet」
「下~ろ~せ~っ!!」
悲痛な奏真の訴えは、完全防音の壁に阻まれて誰の耳にも届かなかった。
「まずはラスベガスに行こう。カジノで遊んだ後はオレゴンに移動して、森の中のコテージでゆっくり過ごした後、ジェットで地中海を目指すんだ」
スイートルームからエントランスホ―ルに通じる長い廊下。海側の壁は全面ガラス張りで、広大な海が広がっていた。燦々と降り注ぐ日光が眩く視界を照らす中、隣を歩くレンは呑気に新婚旅行の新しいプランなんか語っている。
「でさ、僕のオススメは地中海クルーズでね、イルカがたくさん……ソウ、まだ怒ってる?」
「……」
問いかけに対して答えなかったのは、せめてもの奏真の抵抗だった。隣のエロ指名手配犯を無視して、ズンズン大股で歩く。
「ソウ、待って。僕が悪かったよ。君とこうして一緒にいられる事が嬉しくて、ついはしゃぎ過ぎちゃった。本当にごめん。反省してる。だから…ね? 機嫌直して?」
「直せるか!」
叫んだ瞬間、腰にズキンと鋭い痛みが走った。これも全て奴の所為だ。奏真は痛んだ腰を押さえると、頭上で鮮やかに微笑むパートナーを睨みつけた。その勢いのまま、語気荒く捲し立てる。
「あのなぁッ、俺は仕事も家族も国も全部捨ててお前についてきたんだぞ! なのにッ、ハネムーンで部屋に軟禁された上に朝から晩まで変態プレイってッ、お前は俺をなんだと思ってる! テロリストだってもっと人質を大事に扱ってるぞ!」
「まぁ、ソウが怒るのもムリないけど……でも、おかげでまた1つ新しい発見があっただろ?」
「発見って何だよ」
海神ポセイドンも魅せられてしまうだろう艶っぽい微笑を美貌に浮かべて、世界で最も美しい国際指名手配犯はさらっと答えた。
「僕とソウは体の相性が抜群にいいってことさ」
「……このやろぅっ……!」
奏真は拳を固く握りしめながら、一発ぶん殴ってやりたい衝動をどうにか抑え込んだ。空とぼけているのか、それとも天然なのか、レンはずっとこんな調子だ。貸し切りで人目がないのをいい事に、ベタベタとスキンシップを図ってはハグだのキスだとの甘えてくる。もっとも、人の目なんて気にするような性格じゃないけれど。
「愛してるよ、ソウ」
「うわっ!?」
不意打ち的に頬にキスされて、反射的に奏真は仰け反った。
「やめろって! 公共の場所でキスするなって言っただろ!」
「それは日本での話でしょ。欧米諸国じゃキスなんて挨拶だもん、誰も気にしないよ。それに、今この船にいるのは僕とソウの2人だけ……じゃないけど、誰も見てないから大丈夫。なんなら試しにここでエッチしてみる? ガラスに手をついて、海を見ながら……」
「するかよっ」
ニコニコ微笑んでいる美顔を睨んではみたものの、どんな抗議もドSな相手を満足させる戯れにしかならない。なんだか怒っているのがバカバカしくなってきた。奏真は重たい溜息をつくと、隣でご機嫌な様子の伴侶にしみじみと訴えた。
「だいだいレン、この豪華客船って貸し切りなんだろ? 俺たち世界一贅沢な船旅してるってのに、ここに着いてから13日間、ほとんど部屋で過ごして全然リッチな船旅を満喫できてないじゃないか」
「ん~ま~……僕的にはソウの体をたっぷり堪能できて満足だけど」
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