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『こんな忙しい時期にこんな面倒事…』
『あぁ…全くだ。なんで俺達がこんな…』
『こら、仏さんの前だ口を慎まないか。…まぁ、気持ちはわからんでもないが…』
『彼奴はとんだ穀潰しだったが、死んだ後にまで迷惑をかけられるとはな』
『あんな子、うちじゃ引き取れない』
しんしんと雪の降る公園。座っているブランコが少し揺れる度にギィ、ギィ、と錆び付いた音を鳴らす。今日は死んだ父さんと母さんの葬式…だったけれど、気がついたら近くのこの公園でブランコに座っていた。
せめて傘は持ってくるべきだっただろうか。
雪が降っているのに着の身着のまま出てきてしまったせいか酷く冷える。が葬儀場に戻る気が起こらない。このまま家に帰ってしまったとしておそらく俺抜きでも葬儀はつつがなく終わるんだろう。
でも、俺の帰る家だった場所は最早俺の帰る場所ではなくなってしまった。俺の帰らなければいけない場所は今も集まった親戚の大人達で話し合い…という形の押し付け合われているのだろう。
あそこは居心地が悪い。なんとも言えない不安に襲われる。…だから思わず逃げ出してしまったんだろう。
そのまま暫くブランコを漕ぎながら降ってくる雪を見上げていると視界の端に黒いスーツ…いや、礼服だろうか。 傘をさした人物がどうやら公園に向かってくる様だ。
よく思い返せば葬儀場を出てくる時に誰かに行き先を聞かれ答えたような気もするし早々に俺の行き先が決まって誰かが渋々迎えに来たのかもしれない。
といっても違うかもしれないし今は少し尻と温度が馴染んできたこのブランコから腰をあげる理由にはならない。
「天ヶ瀬 遥(あまがせ はるか)君、だね?」
礼服の男は俺に用があったらしく物腰柔らかに話しかけてきた。だけどこんなに若い大人、親戚に居ただろうか…?だけど俺の名前を知っているんだ。きっと俺が出ていってから到着した親戚の子どもか何かでこの人の親に引き取られるから子が迎えに…ってことか?
「はい、そうですけど…お兄さんは親戚の人、ですか?」
「改めて初めまして。俺は君の親戚ではないけれどこれから君と暮らさせてもらう夜明 栞(よあけ しおり)だ。これからよろしく」
は?
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