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【プロローグ1】 交渉決裂
PM7:05 LA某所――
待ち合わせの時刻を悠然と無視して栗毛の紳士が現れても、客である東洋人の眉は一筋も動かなかった。
たかが五分。
極東の果て――海向こうの流儀なら「指一本」で詫びとする失態だがここはLAだ。恐らくはぶちまけたい激情を見事に胸内に秘め、紳士が席に着くのを黙って待つ。
「やるかい?」
差し出されたシガレットケースに、東洋人は手を伸ばすことなく無言で返す。それが紳士流の「詫び」だというなら、これから始まる会談の前途は多難でしかない。
だが、悪びれた風もなく一人紫煙をくゆらせ1分弱。部屋隅に居並ぶ部下らしい男たちがさすがに決まり悪げに己の上司をちらちら見始めたところで、ようやく紳士が話を切りだした。
「まさか最後の晩に嵐に遭うなんて……お互いツイちゃいねえな」
その唇を意味深に歪めて。
およそ三千ドルは下らないと思われるイタリアン・スーツに身を包みながら、存外にくだけた口調で肩をすくめる紳士に、東洋人が気に掛けたのは別の事柄であった。
「“荷”が届かなかったと?」
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