哀愁のある背中が爆発

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 気づけば天国らしき場所にいた。  んなこたぁどうでもいい。問題は死ぬ直前に見た光景だ。  確か、黄昏時に土手で物思いに耽っていたときだった。葦が茂っている中寝そべっていたから、その人にはあたしが見えていなかったに違いない。  葦を掻き分けながらあたしの脇を通りすぎたその人は、あたしに背中を向けて「ここなら……」と何やら不審な言葉を呟いた。  その直後、辺りを震わす重低音が聴こえ、意識がぷつんと切れた。  一体あたしの身に何が起こったのか。  あのくたびれたスーツ男が何をしでかしたというのか。  ひょっとすると……ヤツは異界の住人だったのだろうか。「ここなら……人にも見られずにブラックマーケットファイナンシング・ゲートが開ける」ということか。闇金融ゲートってなんだ。  どうやらあたしはかなり錯乱しているらしい。真ん前に灰色の翼を持ったおじさんがいらっしゃりやがる。幻覚だな。 「幻覚じゃないよ!」  なよっとした幻覚だな。どうせなら今描いている主人公のような猛々しい―― 「ぬああああぁぁっ!!」 「いった! 出会ってすぐアッパーされたの初めてだよ!」  消えないどころかめそめそ泣き始めた。気持―― 「ち悪いとか言わないでよ!」 「言ってないし何なら思ってもないんすけど」 「ボクは幻覚なんかじゃない」  それはそれは、不幸中の不幸だ。 「なんであたしの心読めるんすか」 「心の中だけじゃない。ボクは君の何もかもを知っているのだ」  胸を張るが威厳皆無である。会話が成立していないことも相俟(あいま)って胡散臭いし気持ち悪い。 「信じないなら信じないでいいけどね、ボクは君の専属天使なのだよ」
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