プロローグ

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 混雑した車内は、土砂降りの雨による湿気でいつも以上に蒸し暑い。 駅に停車してドアが開くと、乗客が減ってほんの少し空気が入れ替わるのだが、すぐに新しい乗客が乗ってくるのでホッとする暇がない。 ついさきほどまで、俺の前には死んだ魚のような目をしたサラリーマンが立っていたのだが、入れ替わりで派手なシャツを着た若い男が、狩衣を着た異様に背の高い鳥を引き連れて現れ、つり革を掴んだ。 腕からぶら下がった安物のトートバッグが目の前で揺れるのを鬱陶しく感じた俺は、うつむいてそっと目を閉じ、一年前の記憶をなぞることにする。
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