出会い

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出会い

仕事のストレスで精神を病んで仕事をやめた俺は、以前から行きたいと思っていた南米の「パチャカマック遺跡」に退職金で行くことにした。 憧れの遺跡はについた俺は、見るものすべてを写真に収めようとするかのように、夢中でシャッターを切る。何の制約も受けない個人旅行、ガイドもついていない気ままな一人旅は、好きなことに好きなだけ時間を使うことができるということが、最大のメリットだ。 俺はデジカメの画面を見ながら、理想のアングルを求めて移動する。シャッターを切る。また移動する。シャッターを切る。移動――しようとしたとき、体が一瞬無重力状態になり、空が猛スピードで目の前を流れたかと思うと、頭に衝撃が走り、目の前が暗くなった。 『死んだ。死んだ。』  耳障りな声が頭にガンガン響き、俺は目を覚ます。辺りは真っ暗で、東の空が少し明るくなっているのが見えた。どうやら俺は、夢中になるあまり段差から足を踏み外して転落。頭をぶつけて気絶していたらしい。 個人旅行のデメリットは、トラブルが起こった時に助けを求める相手がいないということ。人気のないところで気絶すると、誰にも気づいてもらえない……そういえば、さっきの声は? ぼやけていた焦点が合ったとき、俺は自分の顔を覗き込んでいる奇妙な姿をした「何か」に気づき、息を飲んだ。 白い泥のようなもので真っ白に塗られた顔、ぶら下げた金貨がキラキラ光るバカでかい冠、絡まった状態で長く垂れさがる髪、鈍く光る金色がかった白目の真ん中に、のっぺりとしたブルーグレーの黒目がまん丸に乗っかり、まるで魚のような目をしている。なんだこいつは――? 『死んだ。死んだ。』  ソイツはもう一度言うと、ゆっくりと立ち上がる。男とも女とも区別できない声のそいつは、人間の形はしているものの、全身に色とりどりのウロコが生えていて、手には水かきがついている。 「……なんだお前。」 俺がそういうと、ソイツは驚いたような表情を浮かべた後、サメのように鋭い歯が並んだ、異様に大きな口を開いて笑った。 『お前気に入らない。お前つまらない。』  オウムのように抑揚のないイントネーションで言うと、そいつは朝日に溶けるように――正確には、朝日でできた俺の影に吸い込まれるように消えてしまった。
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