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異変
人通りの多い街についたとき、俺は昨日とは街の雰囲気が一変していることに気づいた。
物売りの声、やかましいクラクション、バイクが巻き上げる土埃や記念撮影にいそしむ観光客といった風景には変化がないが、そこら中に民族衣装のような衣装に身を包んだ人や、金銀の装飾品を身に着けた動物たちがいて、鳥の羽がついた謎の球体まで浮かんでおり、街全体の密度ががらりと変わっている。
さらに奇妙なのは、地元の人間はもちろん観光客ですら、そういった奇妙なものに誰一人関心を持とうとしない……というより、誰もそれが見えていないようだった。
「ちょっと……。」
俺がアクセサリーの行商人に声をかけると、男は銀で出来た「トゥミ」というお守りがついたペンダントを差し出してニッと笑う。前歯が一本足りなかった。
「ペンダント?ブレスレット?たくさん買うならおまけするよ。」
「いや、そうじゃなくて……。」
俺は男の足元を指さす。そこには、奇妙な飾りを身に着けた犬のような頭の小人がいた。
「こいつはなんだ?」
それを聞いた行商人は、営業スマイルから一転、怪訝な表情を浮かべた。
「なんだ? 何もいないぞ? あんた、コカ茶の飲みすぎか?」
気味の悪いものを見る目で俺を一瞥すると、小さな声で何かぶつぶつ呟きながら、彼は歩き去って行った。わずかに聴こえた言葉から察するに、縁起が悪い出来事が起こった時に口にする、魔除けの言葉だった。
「やっぱり見えてないのか……。」
『みんな見える、みんな聞こえる。』
ふいに、後ろからあの声が聞える。振り返ると、アイツが俺の影から頭だけをにゅっと突き出し、不気味な口を笑いの形に歪めていた。
「うわっ! おま……なんで……。」
『お前気に入らない。俺はついていかない。』
グエッグエッと、鳥の鳴き声のような声を上げて笑ったかと思うと、アイツは再び俺の影の中に潜っていった。
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